
2024年1月1日。この日は、日本の資産形成における新たな時代の幕開けとなりました。新NISAのスタートです。年間投資枠が大幅に拡大され、非課税保有期間が無期限になるなど、その魅力は計り知れません。多くの方がこの新しい制度に期待を寄せ、積極的に活用を始めていることでしょう。
しかし、新NISAの華々しいデビューの陰で、ある疑問が多くの投資家の頭をよぎります。「これまで活用してきた旧NISA(2023年までの一般NISA・つみたてNISA)の口座に入っている資産は、一体どうなるのだろう?」と。
ご安心ください。旧NISAで保有している商品は、新しいNISAとは別枠で管理され、きちんと非課税の恩恵を受け続けることができます。ですが、永遠に非課税というわけではありません。非課税期間には限りがあり、その期間が終了した際の対応を誤ると、せっかくの非課税メリットを最大限に活かせないばかりか、思わぬ落とし穴にはまる可能性もあります。
本記事では、旧NISAで保有している商品の今後の取り扱いについて、詳細な解説とともに、賢い選択肢と戦略的なアドバイスを徹底的に掘り下げていきます。あなたの旧NISA資産を最大限に活用し、新NISA時代における資産形成を成功させるためのヒントが、ここにあります。

1. 旧NISAと新NISA、その違いと共存の仕組みを理解する
まず、旧NISAと新NISAがどのように異なり、そしてどのように「共存」していくのかを正確に理解することが、今後の戦略を立てる上で非常に重要です。
1-1. 旧NISA(2023年まで)のおさらい
制度名 | 年間投資上限額 | 非課税保有期間 | 主な対象商品 |
---|---|---|---|
一般NISA | 120万円 | 最長5年間 | 株式、投資信託、ETFなど(幅広い商品) |
つみたてNISA | 40万円 | 最長20年間 | 金融庁が指定する投資信託(低コストなもの) |
旧NISAは、毎年新たに設定される非課税投資枠を使い、指定された期間内(一般NISAは5年、つみたてNISAは20年)であれば、その枠内で得た利益が非課税になる制度でした。この制度の魅力は、少額からでも非課税投資を始められる点にありました。
1-2. 新NISA(2024年以降)の登場と旧NISAの「廃止」
そして2024年。新NISAがスタートしました。
制度名 | 年間投資上限額 | 生涯投資枠 | 非課税保有期間 | 主な対象商品 |
---|---|---|---|---|
新NISA | 成長投資枠:240万円<br>つみたて投資枠:120万円<br>合計:360万円 | 1,800万円(元本) | 無期限 | 成長投資枠:株式、投資信託など<br>つみたて投資枠:指定投資信託 |
新NISAの最大の特長は、非課税保有期間が「無期限」になったことです。これにより、長期・積立・分散投資の恩恵を最大限に享受できるようになりました。
では、旧NISAはどうなったかというと、法的には「廃止」という言葉が使われますが、これは「新規の投資ができなくなった」という意味です。つまり、2023年までに旧NISA口座で購入した商品は、そのまま非課税期間が終了するまで保有し続けることが可能で、新NISAとは別枠で管理されます。旧NISAの非課税投資枠が新NISAに引き継がれることはありませんし、旧NISAの資産を新NISAに「ロールオーバー」することもできません。
この「別枠管理」という点が非常に重要です。旧NISAの資産が新NISAの生涯投資枠1,800万円にカウントされることもありませんので、ご安心ください。
2. 旧NISA商品の今後:非課税期間終了時の選択肢
旧NISAで保有している商品には、必ず「非課税期間の終了」がやってきます。その際、あなたが選択できる主な道筋は以下の2つです。
2-1. 非課税期間が終了するまで保有し続ける
これが最もシンプルで、特別な手続きを必要としない選択肢です。
- 旧一般NISA: 最長5年間非課税で運用できます。
- 例:2020年に投資した分は2024年末、2021年の投資分は2025年末、2022年の投資分は2026年末、そして2023年の投資分は2027年末で非課税期間が終了します。
- 旧つみたてNISA: 最長20年間非課税で運用できます。
- 例:2023年に投資した分は2042年まで非課税で運用できます。
非課税期間が終了すると、その商品は自動的にあなたの課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。この自動移管の流れは非常にスムーズで、特にあなたが手続きをする必要はありません。しかし、この自動移管には重要な注意点があります。
2-2. 非課税期間終了前に売却する
もう一つの選択肢は、非課税期間が終了する前に、保有している商品を売却することです。
- 非課税メリットの享受: もし、含み益が出ているのであれば、非課税期間中に売却することで、その利益を税金なしで確定させることができます。これが、旧NISAの最大のメリットです。
- 資金の再活用: 売却によって得た資金は、あなたの自由な資金となります。これを新NISAの年間投資枠を活用して再投資することも可能です。新NISAの生涯投資枠は売却した翌年以降に購入時の金額分が復活しますが、年間投資枠(つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円)は売却によって増えるわけではないので、その点はご留意ください。
3. 非課税期間終了後の「落とし穴」と「賢い判断」
非課税期間が終了し、自動的に課税口座に移管される際に、特に注意すべき点が**「取得価額の変更」**です。これを理解していないと、思わぬ税負担や損失の固定化につながる可能性があります。
3-1. 課税口座移管時の「取得価額」のリセット
課税口座に移管された際、その商品の「取得価額」は、NISA口座で購入したときの価格ではなく、「移管された時点の時価」にリセットされます。
- ケースA:含み益がある場合(値上がりしていた場合)
- NISA口座で購入した時よりも値上がりした状態で課税口座に移管されると、その時点までの利益は完全に非課税になります。これは非常に大きなメリットです。
- しかし、移管後にさらに値上がりして売却した場合、移管時の時価からの利益には課税されます。
- NISAで100万円で購入したA株が、移管時に120万円になっていた。
- この20万円の利益は非課税。
- 課税口座に移管されたA株の取得価額は120万円となる。
- その後、A株が130万円に値上がりして売却した場合、120万円からの差額10万円に対して課税される。
- ケースB:含み損がある場合(値下がりしていた場合)
- NISA口座で購入した時よりも値下がりした状態で課税口座に移管されると、その含み損は税法上「なかったこと」になります。
- 課税口座に移管された商品の取得価額は「移管時の時価」となるため、たとえ移管後に少し値上がりして売却し、結果的に元の購入価格を下回る損失で売却したとしても、税法上は利益が出たものとみなされ、課税されることがあります。
- さらに深刻なのは、この「なかったこと」になった損失は、他の課税口座で得た利益と損益通算ができないという点です。これは、損失が出ている場合に課税口座に移行することの大きなデメリットになります。
- NISAで100万円で購入したB株が、移管時に80万円になっていた。
- この20万円の含み損は「なかったこと」になる。
- 課税口座に移管されたB株の取得価額は80万円となる。
- その後、B株が90万円に値上がりして売却した場合、80万円からの差額10万円に対して課税される。
- この場合、元々100万円で購入しているので10万円の損失が出ているにもかかわらず、税金がかかるという不合理な事態が発生する。また、この10万円の損失は税法上の損失ではないため、他の利益と損益通算できない。
3-2. 非課税期間終了時の賢い判断基準
上記の「取得価額のリセット」の仕組みを理解すると、旧NISAの非課税期間終了時の判断基準が見えてきます。
- 含み益が出ている場合:
- そのまま保有して課税口座に移管する: 含み益は非課税で確定し、課税口座移管後にさらに値上がりすれば、その部分に課税されます。長期保有の考えであれば、この選択肢もあり得ます。
- 非課税期間中に売却して利益を確定する: 利益を完全に非課税で確定させ、その資金を新NISAの年間投資枠や、ご自身の生活資金などに充てる。新NISAの生涯投資枠も復活するため、より効率的に非課税投資を継続したい場合はこちらの選択肢が有利です。
- 含み損が出ている場合:
- そのまま保有して課税口座に移管する: 含み損が税法上「なかったこと」になります。もしその後、価格が回復しても、元の取得価額を基準に損失とみなすことはできません。この選択は、実質的な損失を確定させられない上に、将来の税負担のリスクを抱えることになります。非課税期間中に売却して損失を確定させる: NISA口座内で損失を確定することになりますが、その損失は税法上「なかったこと」として扱われるため、他の課税口座での利益と損益通算することはできません。結論として、含み損のある商品を非課税期間終了まで保有し続けることは、税制上のメリットはほぼありません。 むしろ、含み損を抱えたまま移管されることで、将来の売却時に課税されるリスクを抱えることになります。
4. 2020年旧一般NISA投資分は「今年末」が期限!
特に注意が必要なのが、2020年に旧一般NISAで投資を行った方々です。これらの商品の非課税期間は、2024年12月末で終了します。
もし、あなたが2020年に旧一般NISAで投資した商品を保有しているなら、以下のいずれかの対応を検討する時期が来ています。
- 年内に売却し、利益を非課税で確定させる。
- そのままにして、自動的に課税口座に移管されるのを待つ。 この場合、今年の年末(最終営業日)の終値が新たな取得価額となります。移管後の値動きによっては課税される可能性があります。
ご自身の保有状況を確認し、最適な対応を早めに判断しましょう。
5. 旧NISA資産の管理と今後の資産形成戦略
旧NISAの取り扱いを理解した上で、全体の資産形成戦略をどのように組み立てていくべきでしょうか。
5-1. ポートフォリオ全体の最適化
旧NISAで保有している商品だけでなく、課税口座や新NISAで保有している商品も含め、ポートフォリオ全体を定期的に見直すことが重要です。
- 分散投資の状況: 資産クラス(株式、債券、不動産など)、地域、業種が偏っていないか。
- リスク許容度: ご自身の年齢、ライフステージ、リスクに対する考え方と、現在のポートフォリオのリスク水準が合致しているか。
- 目標達成度: 設定している資産形成目標に対して、現在のポートフォリオの進捗はどうか。
旧NISAの商品を売却して得た資金を、新NISAの成長投資枠や、現在のポートフォリオに不足しているアセットクラスへの投資に充てるなど、全体最適の視点を持つことで、より効率的な資産形成が可能です。
5-2. 新NISAの積極的な活用
旧NISAの非課税枠は活用できませんが、新NISAの非課税枠は年間最大360万円、生涯で1,800万円と非常に大きいです。
- つみたて投資枠の継続: 無期限で非課税メリットを享受できるつみたて投資枠を、継続的に活用しましょう。長期・積立・分散投資の基本戦略は、新NISAでも非常に有効です。
- 成長投資枠の活用: 個別株や特定のテーマ型投資信託など、より積極的な投資を行う場合に活用できます。旧NISAで売却した利益を、この成長投資枠に再投資することも有力な選択肢です。
5-3. 定期的な情報収集と専門家への相談
税制や金融商品の情報は常に変化しています。定期的に情報収集を行い、ご自身の知識をアップデートしていくことが重要です。
もし、旧NISAの扱いや新NISAへの移行、全体のポートフォリオについて不安がある場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談することも検討しましょう。プロの視点から、あなたに最適なアドバイスを得られる可能性があります。
まとめ:旧NISAを賢く卒業し、新NISA時代を勝ち抜く
旧NISAで投資した商品は、あなたの資産形成の礎であり、決して無駄になるものではありません。非課税期間の終了という区切りは、むしろご自身の投資を見つめ直し、より効率的な資産形成戦略へとシフトするための良い機会と捉えることができます。
- ご自身の旧NISAの非課税期間の終了時期を把握する。
- 含み益が出ている場合は、非課税期間中の売却も有力な選択肢。
- 含み損が出ている場合は、課税口座への移管によるデメリットを理解し、早めの売却を検討する。
- 新NISAを最大限に活用し、ポートフォリオ全体で最適な資産形成を目指す。
これらのポイントを押さえ、旧NISAを賢く「卒業」し、新NISA時代における長期的な資産形成の成功を勝ち取っていきましょう。あなたの金融リテラシーを高めることが、豊かな未来への確かな一歩となるはずです。


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